研究用スパッタ装置の選び方

 

装置の基本構造

四角形吹き出し: 試料ステージ:
ノウハウいっぱい
(裏にある)
四角形吹き出し: 真空ポンプ:
高真空に到達しなおかつプロセス中の低真空でも使用できるものを選ぶ必要がある。
四角形吹き出し: 真空計:
プロセス中はもちろん、到達真空度なども測定する
四角形吹き出し: 搬送用ゲートバルブ:
ロードロック搬送機構がある場合はここから基板が搬送される
四角形吹き出し: カソード:
この部分からスパッタされたターゲット分子が飛んでいく

 

 

 

(↑参考;iKaZuTi製 小型スパッタ装置)

 

スパッタ成膜装置と値段の関係

装置の値段について少し触れておきます。「安くて良いものを」というのは誰しも願うことですが、研究用のスパッタ装置においては、「値段なり」のようです。安かろう悪かろうの装置を手に入れても悲しいので、どの部分にどれくらいの原価がかかっているのかを解説します。(3インチカソード位の非常に小さな装置だと思ってください。)

 


チャンバー :ピンキリ

排気系統  :[拡散ポンプ+バタフライ弁+ロータリーポンプ(70万円)] 〜 [ターボポンプ+圧力自動調整弁+ドライポンプ(200万円)]

ガス導入系統:[手動フローメータ(10万円)] 〜 [マスフローコントローラ(50万円)]

電源    :[DC電源(50万円)] 〜 [RF電源+マッチングボックス(150万円)]

真空計   :20万円〜

カソード  :ピンキリ

試料ステージ:ピンキリ


 

という感じです。排気系統とガス導入系統、電源だけでもかなりの金額に達するのがわかります。これにカソード、チャンバー、ステージなどの主要部がくっついて装置として完成!!ではなく、制御部やその他の配管部品、板金部品などを組み合わせて完成となります。

上記のことからもわかるとおり、販売価格で300万円くらいよりも安い金額で購入できるようなものはほぼ「オモチャ」に近い装置といえます。儲けゼロで売るとも考えにくいので削ってはいけない部分を削っていると考えるべきでしょう。

 

 

真空排気と真空ポンプ

スパッタ装置では、一度高真空まで排気した後、アルゴンなどのガスを導入して真空圧力を調整し放電させます。このため真空排気システムは、「放電に必要な圧力で持続的に運転させても問題がない」ような仕様にする必要があります。

本引きの真空ポンプだけでなく、あら引きの真空ポンプの種類や能力も重要になってきます。

また、低真空側の圧力調整では「バタフライ弁」と呼ばれる排気速度調整弁で調整を行うことがあります。確かに、このバタフライ弁を使うことによって真空圧力は広範囲に調整可能となります。しかし、この方法は実行排気速度を落として真空圧力を調整している為、真空の質*は確実に悪くなっているといえます。(*水蒸気などの分圧が高くなり、膜質に大きな影響を与えることが多い)

 

(参考;VAT製コントロール振子式バルブ⇒)S650 振子式バルブコントロールシステム  

 

排気システムは上記のことを踏まえて選定する必要があります。一般的には、本引きポンプには、広域型のターボ分子ポンプや拡散ポンプを用い、あら引きポンプには、スクロールやルーツなどのドライポンプやロータリーポンプなど油回転ポンプなどが使われています。

クリーンルームなどの環境ではほとんどの場合、広域型のターボ分子ポンプとドライポンプの組み合わせで構成されています。

 

ターボポンプ選定時の注意点:ターボポンプを選ぶ際 排気速度[l/s]の値や圧縮比、到達真空度[Pa]などに目がいきがちですが、スパッタ装置を設計する上ではこれらの値よりも許容吸気圧力[Pa]や許容背圧[Pa]、許容吸気流量[Pa・l/s]などの数値の方が重要になってきます。なぜなら、スパッタ装置では積極的にアルゴンなどのガスを導入し比較的低真空状態で長時間排気するため、高い圧力でも壊れないようなターボポンプが必要となるためです。

また、排気速度=取り付けフランジ規格(大きさ) ですし、圧縮比や到達圧力もどのメーカーほとんど変わりません。むしろメーカーや製品の種類によって許容吸気圧力や背圧には大きな差が見られます。実際にスパッタ装置用にターボポンプを選定してみると、数多くのターボポンプの中でもいくつかの限られた製品のみがスパッタ装置に向いているということがわかります。もちろん各社スパッタ市場向けに製品を作っていますがその中でも性能的に優れている製品は限られてきます。

(参考;adixen(アルカテル)製広域型ターボ分子ポンプ⇒) ATH シリーズ

 

給電方式と電源

研究用のスパッタ装置においては、DC+RF電源をカソード、試料ステージともに装備しておくのが理想的ですが金額的にこのような構成が難しい場合がほとんどです。スパッタするターゲット、基板の種類と電源について簡単に解説します。

ターゲットが金属などの導体の場合DC電源でスパッタ可能です。対して絶縁体ターゲットの場合はDC電源では放電しないためスパッタ不可能となります。このため、絶縁体ターゲットを使ってスパッタする場合はRF電源を装備する必要があります。DC電源、RF電源ともに長所短所があります。DC電源では、電圧電流の調整が容易な反面アーク放電対策が必要であったり、高真空側での持続的な放電が難しいなどの短所があります。RF電源では、持続的な放電を起こすのが容易な反面、マッチング調整や有効な放電電力の制御の難しさなどの短所があります。また、DC用のカソードをRF電源仕様に改造する場合カソードの構造によってはそのまま使えない場合もあります。これは、RF給電のカソードでは、絶縁性能のほかに容量制御というDC電源では考慮していない部分の性能が必要となるためです。

これらの特徴があるため場合によっては、金属ターゲットでもRF電源を選択する場合もあります。

プラズマ用高周波電源 研究用RF電源(←参考;ノダRF製高周波電源)

電子マッチャー(←参考;京三製作所製電子マッチャー)

カソード構造

放電効率を改善したマグネトロンカソードが一般的になっています。ループした磁石を組み合わせたものです。カソード付近でのプラズマの密度が高くスパッタ時に大量のイオンが高速で突入してくるためターゲット表面は非常に高温になります。そのため、ターゲットを冷却するための水冷機構が設けられています。また、カソードには効率よく給電するための工夫がされています。特にRF給電カソードでは、カソードの直近にマッチングボックスを配置するのが一般的です。

 

ステージ構造

ステージ側もスパッタ装置においてはほぼカソードに近い構造になっている場合がほとんどです。これは、基板側にバイアスを翔れるようにしたり、逆スパッタといって基板エッチングを可能にするために基板側にRF電源などでスパッタできるようにしてあるためです。さらに基板側には膜質の改善その他の目的からほとんどの場合、温度調節機能があり、ヒータおよび熱電対などの温度測定子が付いています。場合によっては水冷などの冷却機構を設けているものもあります。さらに、基板とターゲットの距離を変化させる場合カソードもしくは試料ステージを真空中で動かす必要があります。また、基板の膜厚を均一にする目的でステージを回転させる場合があります。

これらの機能を試料ステージに搭載する場合 回転、直動しながら給電、水冷、ヒータ加熱などを行う必要があるためステージ全体が複雑な構造になってしまいます。また、機能を加えた分 金額的にも高くなってしまいます。

(参考;iKaZuTi製 特注試料ステージ⇒)

 

搬送機構

真空は一度大気に戻してしまうと、元の高真空状態に帰ってくるまでに非常に長い時間が必要になってしまいます。このため、真空を破らないまま試料交換できるような搬送機構を設ける場合があります。真空到達の時間を短縮できるというだけではなく、成膜室の真空系統のシステムを小型化できるなど二次的なメリットもあります。反面、試料の固定方法の工夫が必要だったり、ターゲット交換を頻繁に行うような場合結局真空を破る必要があるなど目的や使い方によっては搬送機構が逆にわずらわしくなる場合もあります。

 

ガス導入構造

ガス導入の方法や配管などもスパッタ装置を考える上で非常に重要な部分のひとつです。真空中ではガスは流体ではなく分子流(直線的な運動)をするためプラズマ状態になる際にいかにフレッシュなガスを放電部に供給するかというのが重要になってきます。また、配管もガスの純度を落とさない工夫が必要となります。電解研磨した配管をレーザー溶接などで接続してVCRなどの金属ガスケット継ぎ手を用いるのが理想的ですが、コストや設備の問題もあるのでできる範囲でやるようにすればよいでしょう。